昔、七尾は貧しい村で、村人は5月のお祭りだけが楽しみだったそうです。村の祭りが近づき村がにぎわい始めた頃、久平の家だけは悲しみにくれていたのでした。それは、村の祭りに神様へのいけにえとして娘を出さなければならなかったからでした。「神様が娘をいけにえとして捕るということは考えられない。神様にお願いしてみよう。」その日から、毎日、神社へお参りに行きました。
何日も通っていたある夜、宮からこんな声が聞こえてきました。「人間の馬鹿者のおかげで、今年も若い娘が食えるわい。でも、越後のしゅけんに見つからないだろうな。いくら俺でもしゅけんにはかなわないだろうからな。」久平はこの声を聞いてすぐにしゅけんを探すために越後に向かいました。しかし、いくら探してもしゅけんは見つかりません。そして明日がもうお祭りという日、もうくたびれ果てた久平は最後の声を振りし
ぼり「しゅけん様、しゅけん様、たのむから出てきておらの娘を助けてくれ。」と叫んだときでした。
「だれだ今、俺の名前を呼んだのは?」
とそこに大きな真っ白な体をしたしゅけんが現れたのでした。久平は七尾での話をしたところ、しゅけんは「そうか、猿神め、能登に隠れておったか。むかし大陸から3匹の猿神が日本にやってきた。少しばかりの力(神通力)を持っていた猿神達は悪事を重ねたので、2匹は俺がやっつけた。しかし、もう1匹がどうしても見つからなかった。わかった。久平、今から俺をそこへ案内せい。」と話したのですが、久平は泣きながら、「しかし、祭りは明日、ここから能登まで行くには何日もかかります。」「心配するな。」と答えた瞬間しゅけんは久平を抱え、風のような速さで七尾まで飛んでいったのでした。
七尾に着くとしゅけんは、娘の衣装を着て、長持の中に入り、猿神が現れるのを待っていたのでした。辺りが静まりかえった頃、猿神は長持の前にやってきました。「ふっふっふっ。馬鹿な人間どもよ。今年も若い娘を食えるのか。楽しみよのー。」と話すやいなや、長持のふたがパッと開き、中からしゅけんが現れたのでした。「猿神よ。やっと見つけたぞ。」「おっ、おまえはしゅけん。ちくしょう。よくも俺がここにいることがわかったな。こうなったらおまえを殺すしか俺の生きる道はなさそうだ。勝負だ。」
すぐに戦いが始まりました。その戦いは、辺りの木をなぎ倒し、稲妻を呼び、暴風を起こしました。どれくらいの間、そのすさまじい戦いは続いたことでしょうか。その嵐も静まり、朝になって、村人達はその様子を見に行きました。すると、そこには大きな猿とオオカミが横たわって死んでいました。しゅけんの正体はオオカミだったのでした。村人達はオオカミに感謝するとともに、3匹の猿のたたりをおそれ、三台の山車を神社に奉納することとなったそうです。